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AMAterrace通信 【第2回】「争族」は親不孝。― 5万人が共感した『笑顔相続』の本質と、家族の未来を守る遺言の力

インタビュー:一般社団法人相続診断協会 代表理事 税理士法人HOPグループ 代表 小川 実 氏

インタビュアー:一般社団法人AMAterrace 事務局 松岡 勇治

すべての始まりは「ありがとう」がもらえない相続現場だった

小川
もともと私は税理士として、中小企業の支援に大きなやりがいを感じていました。経営者の方々と伴走し、課題を解決すると「ありがとう」と心から感謝され、報酬をいただける。
こんなに素晴らしい仕事はないと思っていました。

しかし、相続の仕事は少し違いました。
顧問先の経営者のお父様が亡くなられた際など、避けては通れない相続案件を手掛けるうちに、どうも様子が違うぞ、と。
手続きは完了し、報酬はいただくのですが、家族がバラバラになってしまったり、生まれ育った家を売って財産を分けなければならなくなったり……。
どうしても「ありがとう」と心から喜んでいただけるような終わり方にならないことが多かったのです。

松岡
中小企業支援とは異なり、相続には特有の難しさがあったのですね。

小川
はい。「争う族」と書いて「争族」という言葉がありますが、それを目の当たりにするたびに、心が痛みました。なぜこうなってしまうのか。
突き詰めると、多くの人が民法で定められた「法定相続」通りに分ければ公平だと考えていることに原因がありました。
しかし、現実には家や土地など、物理的に均等に分けられない財産がほとんどです。

亡くなった方が生前に「家は長男に継いでほしい。その代わり、他の財産は次男に」というように、自身の想いを遺言として残していれば、まだ子どもたちも納得しやすい。
しかし、多くの方は「子どもたちなら、うまくやってくれるだろう」と信じて、何も遺さずに旅立たれてしまう。
その結果、残された家族が「公平」という名の下で争い、思い出の詰まった家を売却するしかなくなる。こんな悲しいことはないな、と。

この状況を見て、相続の仕事から手を引くか、それともこの問題を解決するために何とかするかの選択を迫られました。そして、私は後者を選んだのです。

「士業だけでは救えない」― 資格創設という挑戦

松岡
「争族」をなくしたい、という強い思いが原点なのですね。具体的に、どのようなアクションを取られたのでしょうか。

小川
まず、この問題を世に広めようと本を書いたんです。今から15年以上前ですね。
しかし、結果はさんたんたるもので、全く売れませんでした。そこで痛感したのは、一人の士業が持つ影響力の限界です。

そもそも、相続で一番揉めるのは、資産が数億円という層の方々です。数十億円もあれば銀行や証券会社が放っておきませんし、我々のような専門家も積極的に関与します。
しかし、1億円くらいの資産の方は、税理士に相談しても「大きな税金はかからないから大丈夫ですよ」と返され、弁護士に相談しても報酬に見合わないため相手にされないことが多い。専門家から「放置」されているこの層こそが、一番問題を抱えていたのです。

そして、そういう方々は、そもそも士業の事務所に相談に来るという発想がありません。敷居が高いと感じているからです。

松岡
確かに、何か起きてからでないと専門家の扉を叩くのは勇気がいります。

小川
そこで、士業だけで頑張るのではなく、もっと一般の方々の身近にいる人たちとチームを組む仕組みが必要だと考えました。保険や不動産の営業担当者など、普段からお客様と接している方々に、相続の基本的な知識を身につけてもらう。
そして、「このままだとご家族が揉めてしまうかもしれませんよ」「良い専門家を知っていますよ」と、私たち専門家へと繋いでもらう。

この仕組みを実現するために創設したのが「相続診断士」という資格です。

松岡
なるほど。一般の方と専門家を繋ぐ「橋渡し役」を育成しようとされたのですね。

小川
ええ。ただ、ここで一つこだわったことがあります。
それは、「この資格を取っても、保険や不動産が売れるようにはなりませんよ。仕事は増えませんよ」とはっきり伝えることです。

当時も相続関連の資格はいくつかありましたが、どれも数十万円と高額で、専門的な知識を教えるものでした。しかし、一般の方がそれを学んでも、税理士法や弁護士法に阻まれて、結局は具体的な業務はできません。

だから私たちは、あえて3万円程度という取得しやすい価格設定にし、「広く浅く、相続の入口の知識を学ぶための資格です」と位置づけました。相続人を確定する方法や、相続税がかかる目安など、一次ヒアリングに必要な知識に絞ったのです。

この「逆ブランディング」が功を奏したのか、「争族は親不孝。それをなくしたい」という私たちの理念に多くの方が共感してくださり、今では資格者が5万人を超えるまでになりました。

「笑顔相続」を実現する3つの要素と、その本質

松岡
「笑顔相続」という言葉が非常に印象的です。先生が考える「笑顔相続」とは、具体的にどのような状態を指すのでしょうか。

小川
私たちは、「笑顔相続」を3つの要素で定義しています。

  1. 1.感謝の心が育まれること
    • 葬儀の場で、残された家族が故人に対して心から「ありがとう」と感謝を伝えられる状態。
  2. 2.家族の絆が深まること
    • 相続をきっかけに家族が争うのではなく、「これからも皆で仲良くしていこう」と関係性がより強固になる状態。 
  3. 3.納税資金に困らないこと
    • 相続税の支払いなどで困らないよう、生前からきちんと対策がなされている状態。

税金対策ももちろん重要ですが、それは三番目です。一番大切なのは、故人への感謝と家族の絆なのです。

松岡
その感謝や絆を育むために、最も重要なことは何だと思われますか?

小川
それは、亡くなる方がご自身の「人生」をお子さんたちに伝えることです。

先日、92歳で余命半年と宣告された男性の遺言作成をお手伝いしました。ご自宅の価値が高く、4人のお子さんに均等に分けることは難しい状況でした。私が最初にした質問は、「財産はいくらありますか?」ではありません。「お父さん、どこで生まれたんですか?」でした。

彼は新潟から上京し、亡くなった奥様と二人で大変な苦労を重ねて、その家を建て、4人の子どもたちを育て上げた人生を語ってくれました。その話を聞けば、子どもたちは、その家が単なる「資産」ではなく、両親の人生そのものであることを理解できます。

松岡
なるほど…。財産の背景にある物語を伝えるわけですね。

小川
そうです。遺言の付言事項(法的な効力はないが、想いを伝える部分)に、その人生の物語を綴るのです。「お母さんと必死に働いて建てたこの家を、最後まで面倒を見てくれた長女に託したい。ここを拠点に、正月には皆で集まって、私たちのことを思い出してくれると嬉しい」と。

この 想いを伝えれば、「自分の取り分は4分の1だ」と権利を主張する子どもはいなくなるはずです。
財産は「分けるもの」から「みんなで守るもの」へと意識が変わります。
もちろん、遺留分には配慮しますが、金額の多寡を超えて、親の想いが家族を一つにするのです。

財産とは、その人の人生の軌跡そのものです。
その人生を正しく伝えることこそが、家族を「笑顔相続」に導く唯一の道だと確信しています。

広がる共感の輪と、これからの展望

松岡
その想いが広がり、近年では日本郵便が窓口担当者に相続診断士の資格取得を推奨するという動きにも繋がっているのですね。

小川
はい。私たちの活動に共感してくださる企業や団体が増えているのは、本当にありがたいことです。
この活動を通じて、私自身も普段の税理士業務だけでは出会えなかった、保険や不動産業界の志の高い素晴らしい方々とたくさん出会えました。彼らのような異業種のプロフェッショナルと「笑顔相続」という共通のゴールを目指せることは、何よりの財産です。

毎年、資格者の皆さんが実現した「笑顔相続」の事例集も発行しています。
「売れない田舎の土地(負動産)を整理できて喜ばれた」「LGBTQの方の相続を支援した」など、社会の変化を反映した生の事例が私たちの原動力になっています。

松岡
最後に、この記事を読んでいる経営者や士業の方々へメッセージをお願いします。

小川
「争族は親不孝である」。私たちはこのメッセージを伝え続けています。
相続は、税金や法律の手続きである前に、家族の物語を次の世代へと繋ぐ、とても尊い営みです。
財産リストを作る前に、まずはご自身の人生を、ご両親の人生を振り返ってみてください。
そこにこそ、ご家族全員が笑顔になれる未来への鍵が隠されています。

私たちはこれからも、一人でも多くのご家族が「笑顔相続」を迎えられるよう、この活動を広げていきたいと考えています。

松岡
財産ではなく、人生を伝える。相続に対する見方が大きく変わる、大変貴重なお話をありがとうございました。


編集後記

相続問題は、単なる財産分割ではない。それは、親が人生をかけて築き上げてきた想いを、次の世代へどう繋いでいくかという「物語」そのものである。小川氏のインタビューを通じて、私たちはその本質に改めて気づかされました。経営者にとっても、事業承継や個人の資産承継において、この「物語を伝える」という視点は極めて重要ではないでしょうか。専門知識やノウハウだけでなく、人の心に寄り添うことの大切さを、深く考えさせられる時間となりました。

笑顔相続について語る小川代表


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